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煙突の中のドローンは、なぜ登録も許可も要らないのか?
ドローンの記事を書いていると、規制の話ばかりになります。登録して、申請して、許可を取って。今日はその逆の話です。
屋内で飛ばすぶんには航空法はかからない、という話は聞いたことがあるかもしれません。問題は、どこまでが屋内かです。体育館は屋内でしょう。では、上がぽっかり抜けた煙突の中は。
国土交通省の通達「無人航空機に係る規制の運用における解釈について」に、答えが書いてあります。屋内とみなす空間の例に、「煙突内部」がそのまま載っています。ここを飛ぶドローンには、航空法上の許可も承認も、機体の登録すら要りません。
では、そこは自由な場所なのでしょうか。順番に見ていきます。
煙突の中に、航空法は1行も届かない
屋内でも登録くらいは要るだろう、と思った方が多いと思います。100g以上なら登録が義務、と何度も言われてきましたから。
通達の第9項を、そのまま引きます。
建物内等の屋内での飛行については、航空法上の各規制は適用されない。
「制限される」でも「緩和される」でもありません。適用されないと書いてあります。では、どこからが屋内なのか。その例が、通達にそのまま並んでいます。
図1:国が「屋内」とみなしている空間
機体の登録についても、2つの文書が同じことを言っています。国土交通省の「無人航空機登録要領」は、登録の対象から「建物内等の屋内を飛行するもの」を除いています。国のドローン登録システムのよくある質問も同じです。屋内でのみ飛行させる場合は航空法の適用対象外となるため、登録する必要はありません。
線は1本だけあります。開口部から外に出たら、そこから先は屋外です。通達は、意図せず飛び出さない措置を取ること、出てしまったら直ちに飛行を終えるか引き返すことを求めています。屋外に出た瞬間に何が戻ってくるのかは、注意すべき法律のまとめ記事に並べてあります。
煙突の口から1メートル出た瞬間に、さっきまで存在しなかった法律が全部戻ってきます。……戻ってこられても困るのですが。
「人が入れない」の“入れない”は、狭いからではない
ここで少し、医療の話をさせてください。
胃の内側を見たいとき、いまは口からカメラを入れます。昔はおなかを開けるしかありませんでした。開けずに中を見る道具ができたので、体を切らずに済むようになった。狭小空間ドローンがやっているのは、これと同じことです。建物や管を壊さずに、開口部からカメラを入れて中を見る。
ただし、内視鏡と決定的に違う点があります。人間の体内には、人が入れません。当たり前です。ところが下水道管や配管には、人が入れてしまう。入れてしまうから、これまで人が入ってきました。
そして、そこで人が死んでいます。
労働災害と聞くと、けがをする話だと思う方が多いと思います。酸素欠乏症と硫化水素中毒は違います。2025年に起きたのは5件、被災した10人のうち7人が亡くなっています。
厚生労働省が危険な場所として挙げているのは、タンク、マンホール、ピット、槽、井戸、たて坑の内部です。狭小空間ドローンが飛ぶ場所と、ほぼそのまま重なります。
井戸、たて坑、マンホール、タンク、ピット、槽。厚生労働省が酸素欠乏の危険場所に挙げているのは、こういう空間の内部です
管を壊した気体と、人を殺す気体は同じだった
2025年1月28日の午前9時49分ごろ、埼玉県八潮市の県道で道路が陥没しました。最初の穴は長さ約8メートル、幅約4メートル、深さ約5メートル。トラック1台が転落しました。
穴はそこで止まりませんでした。翌29日の未明に2つ目が開きました。30日には2つがつながり、長さ約30メートル、幅約20メートル、深さ約10メートルになります。25メートルプールが丸ごと入る大きさです。一時は約120万人が、洗濯や入浴を控えるよう求められました。
原因究明委員会の中間取りまとめは、陥没の原因をこう書いています。「硫化水素によって腐食した下水道管に起因するもの」と考えられる、と。
お気づきでしょうか。下水道管を内側から壊していた気体と、作業員の命を奪ってきた気体が、同じものです。
点検しなければならない理由と、人が入れない理由が、1つの気体でつながっている。だからこの場所は、放っておくと悪くなるのに、確かめに行くのが難しい。
八潮のあと、国は全国の下水道管路に特別重点調査を要請しました。管径2メートル以上で、1994年度以前に設置されたもの。535の団体が、5,332キロを調べました。
図2:5,332kmを調べたら、どうだったか
赤い部分が、調べたら対策が必要だった延長です
調べた延長の14%が、対策が必要でした。うち201キロは、原則1年以内に手を打つ必要があるとされています。地面の中には、空洞が96箇所見つかりました。
そして、ここが本題です。全国の下水道管は約49万キロあります。今回調べた5,332キロは、そのうちのおよそ1%です。
残りの99%が同じ割合で傷んでいる、という意味ではありません。今回は古くて太い管に絞って調べた結果です。道路の陥没は年に約2,600件ありますが、そのほとんどは深さ50センチ未満の小さなものだと国は書いています。
それでも、耐用年数50年を超えた管は20年後に全体の約40%になります。見なければならない距離は、これから伸びる一方です。
GPSのない場所で、いちばん難しいのは止まること
では飛ばす側の話をします。屋外でドローンを浮かべたことがある方は、指を離すと機体がその場で止まるのをご存じだと思います。あれはGPSが位置を掴んでいるからです。
管の中や煙突の中に、GPSは届きません。指を離すと、機体は止まらずに流れていきます。飛ばすことより、同じ場所に留まることのほうが難しい。狭い場所でこれをやると、壁が近いぶん取り返しがつきません。
気流も素直ではありません。屋外なら下に吹き下ろした風はそのまま逃げますが、管の中では床にも壁にも天井にも当たって返ってきます。自分が起こした風で、自分が押される。
狭い場所の飛行は、狭い場所でしか練習になりません
内視鏡の話に戻ります。あの検査が成り立つのは、道具があるからではありません。道具を持つ人の手が慣れているからです。狭小空間も同じで、機体だけあっても中は見られません。
航空法が適用されない場所を飛ぶのに、当校の狭小空間コースは国家資格を持っている方だけが対象です。規制がないことと、操縦が簡単なことは、別の話だからです。国家資格で扱うのは屋外のGPS環境が中心で、非GPSは地続きの別技術になります。
全てのセンサが途絶えた環境で飛ばすドローンは非常に不安定で、人に例えると目隠しをして歩くような感じです。操縦者はカメラ映像からでしか得られない情報を頼りに空間を立体的に把握し、映像には映らない障害物を避けながら飛行していくので非常に難しい操作になります。
・国土交通省「無人航空機に係る規制の運用における解釈について」(平成27年11月17日制定・国空航第690号、国空機第930号/令和8年4月1日最終改正・国空無機第350041号)第9項「屋内での無人航空機の飛行」(建物内等の屋内での飛行に航空法上の各規制は適用されないこと/屋内とみなす空間の例としてトンネル内部、地下道内部、煙突内部、窓・扉の開いた建物等/開口部に接近する場合および屋外に飛び出した場合の措置)
・国土交通省「無人航空機登録要領」(令和3年11月25日制定・国官参次第116号/令和4年4月26日改正・国空無機第6071号)2.対象(重量100g未満のもの、登録が免除されているもの、建物内等の屋内を飛行するものを除く)
・国土交通省 ドローン登録システム よくある質問(屋内でのみ飛行させる場合は航空法の適用対象外となるため登録は不要)
・厚生労働省「酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況」(2025年は5件・被災者10人・うち死亡7人/酸素欠乏危険場所としてタンク、マンホール、ピット、槽、井戸、たて坑等の内部)
・国土交通省 水管理・国土保全局「八潮市における道路陥没事故の概要」および埼玉県「八潮市で発生した道路陥没事故に関する原因究明委員会 中間取りまとめ」(2025年9月4日/2025年1月28日午前9時49分頃発生・陥没規模の推移・トラック1台の転落・約120万人への下水道使用自粛の要請/陥没の原因は硫化水素によって腐食した下水道管に起因するものと考えられること)
・国土交通省 報道発表「下水道管路の全国特別重点調査の結果を公表します」(令和8年4月21日/対象535団体・5,332km、管径2m以上かつ平成6年度以前に設置された下水道管路/令和8年2月末時点で対策が必要な延長748km、緊急度1が201km、緊急度2が547km、地盤中で確認された空洞96箇所)
・国土交通省「令和5年度 下水道管路メンテナンス年報」ほか(全国の下水道管路 約49万km/標準耐用年数50年を超過した管路は約3万km・約7%、20年後には約20万km・約40%の見込み/令和4年度の道路陥没は約2,600件でそのほとんどは陥没深さ50cm未満)
・調査延長に占める要対策延長の割合(14.0%)および5,332kmが約49万kmに占める割合(約1%)は、上記の公表値からの計算
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